アルコールとデータサイエンス 皆さんは『データサイエンス』と聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか? 近年の情報技術の向上によって得られた大量のデータと、高性能な計算機が開発されたことによる処理の能力によって、データの中から知見を引き出そうという流れが強まっています。その一連の営みのことを『データサイエンス』と呼びます。 今回から始まる、『アルコール×データサイエンス』のシリーズでは アルコール飲料とデータサイエンスの関係性機械学習の大まかな分類とそれぞれの特徴ユーグレナ先端技術研究課でのアルコール飲料におけるデータサイエンス研究の紹介 を三部作でお届けしたいと思います。今回は『アルコール飲料とデータサイエンス』についてお話しさせていただきます。 アルコール飲料とデータサイエンスにどのような関係があるのか?と疑問に思われる方も多いかもしれません。しかしながら、長い間人類を魅了しているアルコール飲料を、もっと美味しいものにしたい!という考えのもと、近年そのような研究開発の重要性が高まっているという背景があります。 例えば、かの有名な『獺祭』を作っている旭酒造は、酒造りにデータサイエンスを取り入れたことで、高い品質の再現性と大量生産を確立しました(現在非公開)。 https://toyokeizai.net/articles/-/41798 酒造りは、伝統的に杜氏という職人文化によって支えられてきました。獺祭では杜氏がいない体制で酒造りをしており、優秀な杜氏がやっていたことを集団でやろうとしています。その中で、様々な形で酒造りの中でデータによる管理を行っています。具体的に挙げると、洗米という米を水洗いする行程では、コメの重量、洗う時間、水温などをすべて数値で計測し、コメに鳩首される水分量を0.2%以下の精度で調整できるようにしています。その日の気温によって少しずつ状況は変わりますので、数値を記録しながらその日に最適な条件にできるようにしてます。ほかにも、発酵の期間中には、さまざまなデータ(アルコール度数、日本酒度、糖度など)を毎日計測し、それぞれをすべて手書きでグラフにしています。毎日、その日に記録したデータから発行の進み具合を分析して、次の日の温度管理などを判断しています。獺祭では年間に900本当いう...
昨今、”精密醗酵(precision fermentation)” と呼ばれる技術の研究が産業レベルまで成熟してきています。 この技術を活用すると、哺乳類に頼らずに微生物の力だけでお肉や牛乳などの食用タンパク質が作れるようになるのです。 世界の食料問題解決のカギとも言われるこの技術についてご紹介いたします。 醗酵のイメージ(MrdidgによるPixabayからの画像) 〇哺乳類由来肉が抱える環境負荷の問題 近年、牛肉や豚肉などの哺乳類由来のタンパク質が与える環境への影響が注目されています。 牛肉や豚肉は当然それぞれ牛や豚からとれるわけですが、これらを育てるためには非常に多くの資源を必要とします。 例えば牛肉は1kg生産するために、飼料として消費されるトウモロコシは11kgに上ると言われています。 知ってる?⽇本の⾷料事情〜⽇本の⾷料⾃給率・⾷料⾃給⼒と⾷料安全保障〜 p.4より(農林水産省) すなわち、牛肉は実際に食べられる量の10倍以上量の別の食べ物を消費しなければ作れないのです。 飼料用のトウモロコシを育てるためにも多量の水・栄養源が消費されていることを考えると、牛肉等の哺乳類由来のタンパク質は、資源消費量の多い高環境負荷な食品ということができます。 世界人口は増加の一途をたどっており、このままでは大規模な飢饉発生すると言われている中で、哺乳類性のタンパク質の生産は大きな負荷になっています。 World Population 1820 2019 – SciFi (sciencefiles.org) この問題の解決のために、哺乳類由来に代わる様々なタンパク質食料の提案がなされています。 例えば植物や培養細胞を使った代替肉や、より環境負荷の低い昆虫食などがこれにあたり、すでに様々な企業が商品化に着手しています。 〇精密醗酵の特徴と代替肉との違い 精密醗酵もこれらに並ぶ、哺乳類に頼らないタンパク質生産法の一つです。 精密醗酵では、カゼインやオボアルブミンなどといった哺乳類由来のタンパク質を、微生物によって作らせる方法です。 これまでの代替肉と違うのは、これらが哺乳類由来とは異...
以前の記事で、体の酸化と抗酸化物質について取り上げましたが、抗酸化物質には様々なものがあるのをご存じですか? 今日はそんな抗酸化物質の一つ、エルゴチオネインについてご紹介します。 エルゴチオネインの構造式 エルゴチオネインは、希少アミノ酸誘導体に分類される天然成分です。 一部のキノコや麹菌、放線菌などの微生物によって作られ、人間は体内で合成することができないため、これらの食品を食べることでのみ体に取り込むことができます。 エルゴチオネインは、非常に強い抗酸化活性を示すことが知られています。人の体内に最も多い抗酸化物質であるグルタチオンと比較すると、最大で30倍ほども高い活性酸素種消去能を持つともいわれています。 このエルゴチオネインが、健康成分として近年にわかに注目を集めてきています。 実は、ヒトの細胞にエルゴチオネインを特異的に取り込む働きをするトランスポーターがあることが明らかになり、ヒト細胞が高濃度にエルゴチオネインを蓄積していることもわかったのです。 人が、元来ヒトの体で作ることができないエルゴチオネインをこれほど積極的に利用しているということは大きなおどろきをもって受け入れられ、その後研究が進み、さらに驚くべきことがいくつもわかりました。 エルゴチオネインは、過酸化脂質と呼ばれ悪性物質の発生原因となるヒドロキシラジカルを唯一直接消去することができます。 また、神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン氏病)、うつ病、肌の老化、白内障など、全身の様々な疾患の抑制に効果があることもがわかっています。 このように体にとって非常に有益なエルゴチオネインですが、加齢に伴って細胞への蓄積量が低下することもわかっており、食べて摂取することで様々な加齢に伴う疾患を抑制することができます。 他の抗酸化物質とは異なる強力な活性をもつエルゴチオネインは、未来のエイジングケアの鍵となる素材かもしれません!
Mylc細胞は、ヒトiPS細胞を分化誘導した後、更に不死化した未熟ミエロイド系細胞であり、樹状細胞への分化誘導が可能である。ユーグレナ由来物質においてこれまで確認されてきた免疫応答がMylc細胞を用いた実験でも再現されている。
いまさらながら、『ユーグレナ』ってなんのことだかご存じでしょうか? 弊社の企業名であり、2005年に屋外での大量培養に成功した生き物の名前でもあります。 ラテン語で"美しい瞳"を意味するその名前は、緑の体に一点だけある赤い眼点に由来します。 ユーグレナの各部位説明。名の由来の赤い眼点は、実は眼ではない! 動物の仲間でありながら光合成で増殖する不思議な生き物・ユーグレナには、実は様々な種類があります。 今回は、その中の一種『ユーグレナ・グラシリス』をご紹介します。 ユーグレナ・グラシリスの顕微鏡画像 ユーグレナを含む藻類の特徴は、光合成で増殖できることです。日の光とCO2を栄養源にして増えられるため、環境にほとんど負荷を与えずにとってもサステナブルです。しかも、水槽で育てられることから植物と違って広大な耕地面積を必要としません。 ユーグレナがバイオ燃料を作れるとわかってから、二酸化炭素と日光だけでエネルギーが作れるという夢のような材料として世界中から注目を集めました。 中でも多くの人がその大量培養を目指したのがユーグレナ・グラシリスです。 ユーグレナ・グラシリスの最大の特徴は、なんといってもその増殖速度の速さにあります。 最適な環境では約20時間ほどで分裂する性質をもちます。ユーグレナの仲間や、同じくバイオ燃料を作れる藻類であるボツリオコッカスなどが4~8日で分裂するという速度であることを考えると、とびぬけて早いことがわかります。 育てた藻類を商品化する際には、増殖の速さはそのままコストの低さにつながります。藻類ビジネスを成功させるためにはぜひともこのグラシリスを大量培養する必要がある、と多くの人が考えていたわけです。 ユーグレナ・グラシリスとその他のユーグレナの増殖速度比較 そうして注目を集めていたグラシリスは、ユーグレナの中で最もよく研究が進んでいる種でもあります。 研究の結果、グラシリスはバイオ燃料の産生に使えるだけでなく、高い栄養価を持つことや、バイオプラスチックを作れること、水中の有害物質の除去に使える可能性などが明らかになり、ますますその重要性は高まっています。 ユーグレナ社は、20...
ミドリムシのさらなる可能性を求めて、全国のさまざまな地域にいるミドリムシをみなさんと一緒に調べる市民参加型研究「みんなのミドリムシプロジェクト(みんみど)」。世の中を変えるかもしれない発見をみなさんと一緒に分かち合いたい、そんな想いから2019年度より開始しました。 これまでに全国の高校生やご家族の皆さんからミドリムシがいそうな”水”を採取して送ってもらい、株式会社ユーグレナと国立研究開発法人 理化学研究所の共同チーム、微細藻類生産制御技術研究チームで解析を進めています。 これまでの活動についてはこちら(外部リンク) みんみど2021への参加者募集!※募集は終了いたしました。 2021年度のテーマは、「あなたの”ひとすくい”の水が、世界の”救い”になるかもしれない」。 ユーグレナ社主催で、全国の中高生やご家族の皆さんからの水サンプルを募集いたします。これまでの活動が認められたことにより、ユーグレナ社からの予算がつきました。そのため、ご応募された全ての方(先着順)に採取をお願いできるようになりました。感染症対策には十分にご注意いただいた上、皆さんの力をぜひお貸しください! また、参加された方を対象としたオンラインラボツアーまたは座談会も予定(2021年9月ごろ2022年1月以降に変更)しております。採取した水がどのように解析され、役立たとうとしているのかご理解を深めていただける機会になれば幸いです。 ※企画・運営は株式会社ユーグレナが行い、理化学研究所が集まったサンプルの解析に協力します。 対象 ・中高生の皆さん(統括できる教員を含めたチームを作り、応募は教員が代表する) ・ご家族の皆さん(安全に配慮し、大人を含むご家族2名以上で採取する) 参加費用 無料(先着25校の学校および100組のご家族) ※本プロジェクトの運営側は、採取時の事故、トラブル等に起因する損害に対する補償ができませんので、必要な場合は、保険等への加入をお願いします。 応募方法 ※募集は終了いたしました。 各対象者専用の参加応募フォームよりご応募ください。先着順に採取キットをお送りします。 安全面への配慮のため、中高生の皆さんは学校単位で、ご家族単位で未成年の場合は20才以上の責任者の同意と採取時の同伴いただく...
皆さんは、”ゲノム編集”という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 近年、簡便なゲノム編集ツールCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)システムが2020年のノーベル化学賞を受賞したことを皮切りに、メディアなどでも取り上げられることが多くなりました。 読んで字のごとく、ゲノム、すなわち遺伝子を編集することを意味する言葉です。 生命の設計書たる遺伝子を編集などというと、なにやら人智を超えた所業のようにも思えてしまいますが、そんなに超自然なことをしているわけではありません。 そもそも生き物は、環境に対して最適な形へと進化できるよう、常に外部の遺伝子を取り込めるような仕組みを持っているのです。例えば、一度感染したウイルスへの抗体の獲得などがそれにあたります。 植物でも、古くから非常に近いことをしています。交配による品種改良です。我々が普段口にする野菜や果物などは、よりおいしく&より強く&より実を多くつけるように、野生品種から改良を重ねてきたものが市場に出回っています。 さて、前置きが非常に長くなってしまいましたが、今回はそんな品種改良についてご紹介です。 ユーグレナは屋外での培養が難しく、商業目的で大量培養されるようになったのはごく最近です。それゆえに、品種改良と呼べるものがほとんど行われておらず、特に味やにおいなどについては、野生近い状態のままなのです。 そこで私たちは、微細藻類ユーグレナを簡単に品種改良できる手法を開発いたしました。 原理は簡単に説明すると以下の図のようになります。 ユーグレナの品種改良 まず、培養したユーグレナに、重イオンビームという放射線の一種を当てます。 このような高エネルギー波を当てると、ユーグレナのゲノムのあちこちに、もとの遺伝子配列とは異なるランダムな変化が起こることがあります。 その後、変化したユーグレナを、セルソーターという機械で一つ一つより分けていきます。 より分けたユーグレナを育ててみると、形や性質などが野生種とは全く異なるユーグレナがいくつも取れてきます。これらのユーグレナから、これまでの個体よりも良い個体が得られれば、品種改良は成功です! 弊社で...
クロロフィルと銅が反応した銅クロロフィルは光や酸に対して安定で、鮮やかな緑色が特徴、化粧品や食品の添加物として利用されている。ユーグレナから抽出したクロロフィルを用いて銅クロロフィルを作成し、色素として利用 https://youtu.be/w8x37IZfR68
最近、コンビニやスーパーなどでもらえるレジ袋が有料になりましたね。 これは、従来のプラスチック製ビニール袋が環境へ大きな負荷を与えていることを受けて、身の回りのプラスチックのあり方やライフスタイルを見直すために行われた変更だということです。 従来の石油由来のプラスチックは、作るのにも処分するのにも大量の二酸化炭素を排出します。 また、海洋プラスチック問題などに代表されるように、環境中に放出されたプラスチックはなかなか分解されにくく、時に海洋生物の命を奪ったりもしてしまいます。 今、身近なプラスチックの存在を、世界的に見直すときが来ているのです。 そんな中、注目を集めるのが ”バイオマスプラスチック” です。限りある石油ではなく、再生可能なバイオマス資源から作成したプラスチックのことです。 バイオマスの持つカーボンニュートラル(製造過程でCO2を吸収するので燃やしても空気中のCO2量が増えない)な性質をゆえに従来のプラスチックより環境への負荷が低く、次世代のプラスチックとして注目されています。 我々ユーグレナでも、ミドリムシ由来のバイオマスプラスチックを開発し、その事業化を目指しています。 その名も、『パラレジン』! (左上)ユーグレナの固有成分パラミロン(右上)パラミロン由来プラスチック『パラレジン』(左下)パラレジンから作ったお皿(右下)パラレジンから作ったスプーン・へら ユーグレナの固有成分パラミロンから作り出した樹脂であることから、パラミロンの『パラ』と英語で樹脂を意味する『レジン』を掛け合わせて名づけました。 また、接頭辞のpara-には、「異なる」「別の」などの意味もあり、従来の石油由来プラスチックとは似ているけれど異なる樹脂、という意味も込めています。 パラレジンは、製造の過程を変えることで硬さや柔軟性、熱耐性などの様々な物理的性質を変化させられる可能性があります。 つまり、ビニール袋のように柔らかいものからパソコンのように固いものまでさまざまなものになれるということです。 今世界にあふれる石油由来のプラスチックを、少しでも環境負荷の低いパラレジンで置き換えることを目指して、我々は、複数の企業・団体と...
冬になると食べたくなる、牡蠣。実は牡蠣はサステナブルな可能性に溢れた食品だと言うことはご存じでしょうか? 牡蠣殻の主成分は炭酸カルシウム (CaCO3) ですが、牡蠣は成長の過程で海水に溶け込んだCO2を間接的に取り込んで牡蠣殻を合成するため、炭素の固定に寄与することが期待されています。さらに牡蠣養殖は、投餌の必要がないため環境負荷が少ない点、異常発生したプランクトンを摂餌により除去して海洋環境における物質循環の調整役を担う点からも、牡蠣はサステナブルな食材として注目されており、WWFのレポートでも言及されています(https://www.wwf.or.jp/activities/data/20210308resource01.pdf)。 冬になると食べたくなる「牡蠣」 一方、弊社が有する独自素材、微細藻類「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」もサステナビリティへの寄与が期待される食材です。59種類の豊富な栄養素を含み健康食品として利用されるだけでなく、成長時に光合成をしてCO2を吸収するため、人と地球の健康を同時に実現するポテンシャルを持つ素材として注目されています。微細藻類ユーグレナについての紹介記事は⇒こちら 微細藻類「ユーグレナ」 この度、株式会社ユーグレナとうみの株式会社は、これらのサステナブルな素材、ユーグレナと牡蠣を組み合わせて、「フレーバーオイスター ユーグレナ」を共同開発いたしました。 「フレーバーオイスター」はうみの株式会社らが特許出願しました独自技術により作られます。この技術は、飼育水中に懸濁した非水溶性の微粉末を投餌すると牡蠣類が餌と誤認して摂食してしまう点と、牡蠣を海水から水揚げしてしまうと腸管内容物は排出されず保持される、という2つの性質を利用したものであり、任意の素材を取り込ませ、風味づけを行うことができる優れた技術です。 ひと口目は通常の牡蠣、しかし噛み進めると給餌素材の味わいが口に広がっていき、複雑で奥ゆかしい豊かなおいしさが感じられます。 この技術を用いて共同開発しました「フレーバーオイスター ユーグレナ」。断面からは緑色のユーグレナが垣間見られます。ひと口目は通常の牡蠣ですが、二口目から徐々にユーグレナの風味が広がってきます。牡蠣がユーグレナを少し消化したおかげで、ユーグレナ粉...
アルコールとデータサイエンス 皆さんは『データサイエンス』と聞いてどのようなことを思い浮かべるでしょうか? 近年の情報技術の向上によって得られた大量のデータと、高性能な計算機が開発されたことによる処理の能力によって、データの中から知見を引き出そうという流れが強まっています。その一連の営みのことを『データサイエンス』と呼びます。 今回から始まる、『アルコール×データサイエンス』のシリーズでは アルコール飲料とデータサイエンスの関係性機械学習の大まかな分類とそれぞれの特徴ユーグレナ先端技術研究課でのアルコール飲料におけるデータサイエンス研究の紹介 を三部作でお届けしたいと思います。今回は『アルコール飲料とデータサイエンス』についてお話しさせていただきます。 アルコール飲料とデータサイエンスにどのような関係があるのか?と疑問に思われる方も多いかもしれません。しかしながら、長い間人類を魅了しているアルコール飲料を、もっと美味しいものにしたい!という考えのもと、近年そのような研究開発の重要性が高まっているという背景があります。 例えば、かの有名な『獺祭』を作っている旭酒造は、酒造りにデータサイエンスを取り入れたことで、高い品質の再現性と大量生産を確立しました(現在非公開)。 https://toyokeizai.net/articles/-/41798 酒造りは、伝統的に杜氏という職人文化によって支えられてきました。獺祭では杜氏がいない体制で酒造りをしており、優秀な杜氏がやっていたことを集団でやろうとしています。その中で、様々な形で酒造りの中でデータによる管理を行っています。具体的に挙げると、洗米という米を水洗いする行程では、コメの重量、洗う時間、水温などをすべて数値で計測し、コメに鳩首される水分量を0.2%以下の精度で調整できるようにしています。その日の気温によって少しずつ状況は変わりますので、数値を記録しながらその日に最適な条件にできるようにしてます。ほかにも、発酵の期間中には、さまざまなデータ(アルコール度数、日本酒度、糖度など)を毎日計測し、それぞれをすべて手書きでグラフにしています。毎日、その日に記録したデータから発行の進み具合を分析して、次の日の温度管理などを判断しています。獺祭では年間に900本当いう...
昨今、”精密醗酵(precision fermentation)” と呼ばれる技術の研究が産業レベルまで成熟してきています。 この技術を活用すると、哺乳類に頼らずに微生物の力だけでお肉や牛乳などの食用タンパク質が作れるようになるのです。 世界の食料問題解決のカギとも言われるこの技術についてご紹介いたします。 醗酵のイメージ(MrdidgによるPixabayからの画像) 〇哺乳類由来肉が抱える環境負荷の問題 近年、牛肉や豚肉などの哺乳類由来のタンパク質が与える環境への影響が注目されています。 牛肉や豚肉は当然それぞれ牛や豚からとれるわけですが、これらを育てるためには非常に多くの資源を必要とします。 例えば牛肉は1kg生産するために、飼料として消費されるトウモロコシは11kgに上ると言われています。 知ってる?⽇本の⾷料事情〜⽇本の⾷料⾃給率・⾷料⾃給⼒と⾷料安全保障〜 p.4より(農林水産省) すなわち、牛肉は実際に食べられる量の10倍以上量の別の食べ物を消費しなければ作れないのです。 飼料用のトウモロコシを育てるためにも多量の水・栄養源が消費されていることを考えると、牛肉等の哺乳類由来のタンパク質は、資源消費量の多い高環境負荷な食品ということができます。 世界人口は増加の一途をたどっており、このままでは大規模な飢饉発生すると言われている中で、哺乳類性のタンパク質の生産は大きな負荷になっています。 World Population 1820 2019 – SciFi (sciencefiles.org) この問題の解決のために、哺乳類由来に代わる様々なタンパク質食料の提案がなされています。 例えば植物や培養細胞を使った代替肉や、より環境負荷の低い昆虫食などがこれにあたり、すでに様々な企業が商品化に着手しています。 〇精密醗酵の特徴と代替肉との違い 精密醗酵もこれらに並ぶ、哺乳類に頼らないタンパク質生産法の一つです。 精密醗酵では、カゼインやオボアルブミンなどといった哺乳類由来のタンパク質を、微生物によって作らせる方法です。 これまでの代替肉と違うのは、これらが哺乳類由来とは異...
以前の記事で、体の酸化と抗酸化物質について取り上げましたが、抗酸化物質には様々なものがあるのをご存じですか? 今日はそんな抗酸化物質の一つ、エルゴチオネインについてご紹介します。 エルゴチオネインの構造式 エルゴチオネインは、希少アミノ酸誘導体に分類される天然成分です。 一部のキノコや麹菌、放線菌などの微生物によって作られ、人間は体内で合成することができないため、これらの食品を食べることでのみ体に取り込むことができます。 エルゴチオネインは、非常に強い抗酸化活性を示すことが知られています。人の体内に最も多い抗酸化物質であるグルタチオンと比較すると、最大で30倍ほども高い活性酸素種消去能を持つともいわれています。 このエルゴチオネインが、健康成分として近年にわかに注目を集めてきています。 実は、ヒトの細胞にエルゴチオネインを特異的に取り込む働きをするトランスポーターがあることが明らかになり、ヒト細胞が高濃度にエルゴチオネインを蓄積していることもわかったのです。 人が、元来ヒトの体で作ることができないエルゴチオネインをこれほど積極的に利用しているということは大きなおどろきをもって受け入れられ、その後研究が進み、さらに驚くべきことがいくつもわかりました。 エルゴチオネインは、過酸化脂質と呼ばれ悪性物質の発生原因となるヒドロキシラジカルを唯一直接消去することができます。 また、神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン氏病)、うつ病、肌の老化、白内障など、全身の様々な疾患の抑制に効果があることもがわかっています。 このように体にとって非常に有益なエルゴチオネインですが、加齢に伴って細胞への蓄積量が低下することもわかっており、食べて摂取することで様々な加齢に伴う疾患を抑制することができます。 他の抗酸化物質とは異なる強力な活性をもつエルゴチオネインは、未来のエイジングケアの鍵となる素材かもしれません!
Mylc細胞は、ヒトiPS細胞を分化誘導した後、更に不死化した未熟ミエロイド系細胞であり、樹状細胞への分化誘導が可能である。ユーグレナ由来物質においてこれまで確認されてきた免疫応答がMylc細胞を用いた実験でも再現されている。
いまさらながら、『ユーグレナ』ってなんのことだかご存じでしょうか? 弊社の企業名であり、2005年に屋外での大量培養に成功した生き物の名前でもあります。 ラテン語で"美しい瞳"を意味するその名前は、緑の体に一点だけある赤い眼点に由来します。 ユーグレナの各部位説明。名の由来の赤い眼点は、実は眼ではない! 動物の仲間でありながら光合成で増殖する不思議な生き物・ユーグレナには、実は様々な種類があります。 今回は、その中の一種『ユーグレナ・グラシリス』をご紹介します。 ユーグレナ・グラシリスの顕微鏡画像 ユーグレナを含む藻類の特徴は、光合成で増殖できることです。日の光とCO2を栄養源にして増えられるため、環境にほとんど負荷を与えずにとってもサステナブルです。しかも、水槽で育てられることから植物と違って広大な耕地面積を必要としません。 ユーグレナがバイオ燃料を作れるとわかってから、二酸化炭素と日光だけでエネルギーが作れるという夢のような材料として世界中から注目を集めました。 中でも多くの人がその大量培養を目指したのがユーグレナ・グラシリスです。 ユーグレナ・グラシリスの最大の特徴は、なんといってもその増殖速度の速さにあります。 最適な環境では約20時間ほどで分裂する性質をもちます。ユーグレナの仲間や、同じくバイオ燃料を作れる藻類であるボツリオコッカスなどが4~8日で分裂するという速度であることを考えると、とびぬけて早いことがわかります。 育てた藻類を商品化する際には、増殖の速さはそのままコストの低さにつながります。藻類ビジネスを成功させるためにはぜひともこのグラシリスを大量培養する必要がある、と多くの人が考えていたわけです。 ユーグレナ・グラシリスとその他のユーグレナの増殖速度比較 そうして注目を集めていたグラシリスは、ユーグレナの中で最もよく研究が進んでいる種でもあります。 研究の結果、グラシリスはバイオ燃料の産生に使えるだけでなく、高い栄養価を持つことや、バイオプラスチックを作れること、水中の有害物質の除去に使える可能性などが明らかになり、ますますその重要性は高まっています。 ユーグレナ社は、20...
ミドリムシのさらなる可能性を求めて、全国のさまざまな地域にいるミドリムシをみなさんと一緒に調べる市民参加型研究「みんなのミドリムシプロジェクト(みんみど)」。世の中を変えるかもしれない発見をみなさんと一緒に分かち合いたい、そんな想いから2019年度より開始しました。 これまでに全国の高校生やご家族の皆さんからミドリムシがいそうな”水”を採取して送ってもらい、株式会社ユーグレナと国立研究開発法人 理化学研究所の共同チーム、微細藻類生産制御技術研究チームで解析を進めています。 これまでの活動についてはこちら(外部リンク) みんみど2021への参加者募集!※募集は終了いたしました。 2021年度のテーマは、「あなたの”ひとすくい”の水が、世界の”救い”になるかもしれない」。 ユーグレナ社主催で、全国の中高生やご家族の皆さんからの水サンプルを募集いたします。これまでの活動が認められたことにより、ユーグレナ社からの予算がつきました。そのため、ご応募された全ての方(先着順)に採取をお願いできるようになりました。感染症対策には十分にご注意いただいた上、皆さんの力をぜひお貸しください! また、参加された方を対象としたオンラインラボツアーまたは座談会も予定(2021年9月ごろ2022年1月以降に変更)しております。採取した水がどのように解析され、役立たとうとしているのかご理解を深めていただける機会になれば幸いです。 ※企画・運営は株式会社ユーグレナが行い、理化学研究所が集まったサンプルの解析に協力します。 対象 ・中高生の皆さん(統括できる教員を含めたチームを作り、応募は教員が代表する) ・ご家族の皆さん(安全に配慮し、大人を含むご家族2名以上で採取する) 参加費用 無料(先着25校の学校および100組のご家族) ※本プロジェクトの運営側は、採取時の事故、トラブル等に起因する損害に対する補償ができませんので、必要な場合は、保険等への加入をお願いします。 応募方法 ※募集は終了いたしました。 各対象者専用の参加応募フォームよりご応募ください。先着順に採取キットをお送りします。 安全面への配慮のため、中高生の皆さんは学校単位で、ご家族単位で未成年の場合は20才以上の責任者の同意と採取時の同伴いただく...
皆さんは、”ゲノム編集”という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 近年、簡便なゲノム編集ツールCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)システムが2020年のノーベル化学賞を受賞したことを皮切りに、メディアなどでも取り上げられることが多くなりました。 読んで字のごとく、ゲノム、すなわち遺伝子を編集することを意味する言葉です。 生命の設計書たる遺伝子を編集などというと、なにやら人智を超えた所業のようにも思えてしまいますが、そんなに超自然なことをしているわけではありません。 そもそも生き物は、環境に対して最適な形へと進化できるよう、常に外部の遺伝子を取り込めるような仕組みを持っているのです。例えば、一度感染したウイルスへの抗体の獲得などがそれにあたります。 植物でも、古くから非常に近いことをしています。交配による品種改良です。我々が普段口にする野菜や果物などは、よりおいしく&より強く&より実を多くつけるように、野生品種から改良を重ねてきたものが市場に出回っています。 さて、前置きが非常に長くなってしまいましたが、今回はそんな品種改良についてご紹介です。 ユーグレナは屋外での培養が難しく、商業目的で大量培養されるようになったのはごく最近です。それゆえに、品種改良と呼べるものがほとんど行われておらず、特に味やにおいなどについては、野生近い状態のままなのです。 そこで私たちは、微細藻類ユーグレナを簡単に品種改良できる手法を開発いたしました。 原理は簡単に説明すると以下の図のようになります。 ユーグレナの品種改良 まず、培養したユーグレナに、重イオンビームという放射線の一種を当てます。 このような高エネルギー波を当てると、ユーグレナのゲノムのあちこちに、もとの遺伝子配列とは異なるランダムな変化が起こることがあります。 その後、変化したユーグレナを、セルソーターという機械で一つ一つより分けていきます。 より分けたユーグレナを育ててみると、形や性質などが野生種とは全く異なるユーグレナがいくつも取れてきます。これらのユーグレナから、これまでの個体よりも良い個体が得られれば、品種改良は成功です! 弊社で...
クロロフィルと銅が反応した銅クロロフィルは光や酸に対して安定で、鮮やかな緑色が特徴、化粧品や食品の添加物として利用されている。ユーグレナから抽出したクロロフィルを用いて銅クロロフィルを作成し、色素として利用 https://youtu.be/w8x37IZfR68
最近、コンビニやスーパーなどでもらえるレジ袋が有料になりましたね。 これは、従来のプラスチック製ビニール袋が環境へ大きな負荷を与えていることを受けて、身の回りのプラスチックのあり方やライフスタイルを見直すために行われた変更だということです。 従来の石油由来のプラスチックは、作るのにも処分するのにも大量の二酸化炭素を排出します。 また、海洋プラスチック問題などに代表されるように、環境中に放出されたプラスチックはなかなか分解されにくく、時に海洋生物の命を奪ったりもしてしまいます。 今、身近なプラスチックの存在を、世界的に見直すときが来ているのです。 そんな中、注目を集めるのが ”バイオマスプラスチック” です。限りある石油ではなく、再生可能なバイオマス資源から作成したプラスチックのことです。 バイオマスの持つカーボンニュートラル(製造過程でCO2を吸収するので燃やしても空気中のCO2量が増えない)な性質をゆえに従来のプラスチックより環境への負荷が低く、次世代のプラスチックとして注目されています。 我々ユーグレナでも、ミドリムシ由来のバイオマスプラスチックを開発し、その事業化を目指しています。 その名も、『パラレジン』! (左上)ユーグレナの固有成分パラミロン(右上)パラミロン由来プラスチック『パラレジン』(左下)パラレジンから作ったお皿(右下)パラレジンから作ったスプーン・へら ユーグレナの固有成分パラミロンから作り出した樹脂であることから、パラミロンの『パラ』と英語で樹脂を意味する『レジン』を掛け合わせて名づけました。 また、接頭辞のpara-には、「異なる」「別の」などの意味もあり、従来の石油由来プラスチックとは似ているけれど異なる樹脂、という意味も込めています。 パラレジンは、製造の過程を変えることで硬さや柔軟性、熱耐性などの様々な物理的性質を変化させられる可能性があります。 つまり、ビニール袋のように柔らかいものからパソコンのように固いものまでさまざまなものになれるということです。 今世界にあふれる石油由来のプラスチックを、少しでも環境負荷の低いパラレジンで置き換えることを目指して、我々は、複数の企業・団体と...
冬になると食べたくなる、牡蠣。実は牡蠣はサステナブルな可能性に溢れた食品だと言うことはご存じでしょうか? 牡蠣殻の主成分は炭酸カルシウム (CaCO3) ですが、牡蠣は成長の過程で海水に溶け込んだCO2を間接的に取り込んで牡蠣殻を合成するため、炭素の固定に寄与することが期待されています。さらに牡蠣養殖は、投餌の必要がないため環境負荷が少ない点、異常発生したプランクトンを摂餌により除去して海洋環境における物質循環の調整役を担う点からも、牡蠣はサステナブルな食材として注目されており、WWFのレポートでも言及されています(https://www.wwf.or.jp/activities/data/20210308resource01.pdf)。 冬になると食べたくなる「牡蠣」 一方、弊社が有する独自素材、微細藻類「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」もサステナビリティへの寄与が期待される食材です。59種類の豊富な栄養素を含み健康食品として利用されるだけでなく、成長時に光合成をしてCO2を吸収するため、人と地球の健康を同時に実現するポテンシャルを持つ素材として注目されています。微細藻類ユーグレナについての紹介記事は⇒こちら 微細藻類「ユーグレナ」 この度、株式会社ユーグレナとうみの株式会社は、これらのサステナブルな素材、ユーグレナと牡蠣を組み合わせて、「フレーバーオイスター ユーグレナ」を共同開発いたしました。 「フレーバーオイスター」はうみの株式会社らが特許出願しました独自技術により作られます。この技術は、飼育水中に懸濁した非水溶性の微粉末を投餌すると牡蠣類が餌と誤認して摂食してしまう点と、牡蠣を海水から水揚げしてしまうと腸管内容物は排出されず保持される、という2つの性質を利用したものであり、任意の素材を取り込ませ、風味づけを行うことができる優れた技術です。 ひと口目は通常の牡蠣、しかし噛み進めると給餌素材の味わいが口に広がっていき、複雑で奥ゆかしい豊かなおいしさが感じられます。 この技術を用いて共同開発しました「フレーバーオイスター ユーグレナ」。断面からは緑色のユーグレナが垣間見られます。ひと口目は通常の牡蠣ですが、二口目から徐々にユーグレナの風味が広がってきます。牡蠣がユーグレナを少し消化したおかげで、ユーグレナ粉...