以前の記事で、体の酸化と抗酸化物質について取り上げましたが、抗酸化物質には様々なものがあるのをご存じですか? 今日はそんな抗酸化物質の一つ、エルゴチオネインについてご紹介します。 エルゴチオネインの構造式 エルゴチオネインは、希少アミノ酸誘導体に分類される天然成分です。 一部のキノコや麹菌、放線菌などの微生物によって作られ、人間は体内で合成することができないため、これらの食品を食べることでのみ体に取り込むことができます。 エルゴチオネインは、非常に強い抗酸化活性を示すことが知られています。人の体内に最も多い抗酸化物質であるグルタチオンと比較すると、最大で30倍ほども高い活性酸素種消去能を持つともいわれています。 このエルゴチオネインが、健康成分として近年にわかに注目を集めてきています。 実は、ヒトの細胞にエルゴチオネインを特異的に取り込む働きをするトランスポーターがあることが明らかになり、ヒト細胞が高濃度にエルゴチオネインを蓄積していることもわかったのです。 人が、元来ヒトの体で作ることができないエルゴチオネインをこれほど積極的に利用しているということは大きなおどろきをもって受け入れられ、その後研究が進み、さらに驚くべきことがいくつもわかりました。 エルゴチオネインは、過酸化脂質と呼ばれ悪性物質の発生原因となるヒドロキシラジカルを唯一直接消去することができます。 また、神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン氏病)、うつ病、肌の老化、白内障など、全身の様々な疾患の抑制に効果があることもがわかっています。 このように体にとって非常に有益なエルゴチオネインですが、加齢に伴って細胞への蓄積量が低下することもわかっており、食べて摂取することで様々な加齢に伴う疾患を抑制することができます。 他の抗酸化物質とは異なる強力な活性をもつエルゴチオネインは、未来のエイジングケアの鍵となる素材かもしれません!
I.概要 第1回エルゴチオネイン・セレノネイン研究会が2020年10月8日(木)にオンラインにて開催されました。特別講演と一般演題合わせて10個の最先端研究の発表が行われ、参加者も200人以上に上り、活発な質疑応答も行われました。プログラムは以下の通りです。 主催:株式会社ユーグレナ 共催:健康長寿食品研究開発プラットフォーム(おー09) 後援:農林水産省 「知」の集積と活用の場 II.演題詳細 ①「エルゴチオネインとヒト認知能の関わり」 〇柳田充弘 名誉教授(沖縄科学技術大学院大学G0細胞ユニット) 京都大学生命科学研究科と沖縄科学技術機構(後に大学院大学)で10年以上前に質量分析機を用いた新規メタボリズム研究を開始し、細胞寿命に関わるタンパク質やメタボライトの同定と機能を追求した(Pluskal et al, Mol. Biosyst. 2009; Takeda et al, PNAS, 2010)。分裂酵母の全メタボローム解析によって抗酸化物質であるエルゴチオネイン(以下EGT)含量が培地のグルコース飢餓により上昇し細胞寿命の延長が伴うことを見出した(Pluskal et al, FEBS J, 2011)。次いで窒素源飢餓でもEGT含量が上昇すること(Sajiki et al Metabolites 2013)を見出し、分裂酵母細胞の栄養飢餓に伴う大きな代謝変化の中でEGT並びにセレノネイン(Pluskal et al 2013 Plos One)など関連メタボライトが関わる代謝変動も判明した。EGTの抗酸化作用が寿命延長と関わるならば、EGTは高等生物にも存在するのでヒトを対象とする研究の意義も予想された。このラインの研究を発展させるために以降ヒト研究は京都大学医学研究科の近藤祥司准教授グループ等との共同研究を開始した。包括的な血液メタボロミックスを行うとヒト血液と分裂酵母のパターンは驚くほどよく似ていた(75%の相同性;Chaleckis et al 2014 Mol Biosyst)。しかしEGT含量は老化度(年齢経過)と関わるという結果はえられなかった。その代わり抗酸化の低下は年齢と共に起きるようであった(Chaleckis et al 2016, PNAS)。一方絶食下でE...
第2回 エルゴチオネイン・セレノネイン研究会 プログラム&抄録集 2021年11月17日(水) 13:00 ~ 16:50 【主 催】株式会社ユーグレナ 【共 催】健康長寿食品研究開発プラットフォーム (お-09) 【後 援】農林水産省 「知」の集積と活用の場 ご挨拶 「第2回エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を2021年11月17日(水)に、株式会社ユーグレナの主催でオンラインにて開催する運びとなりました。 エルゴチオネインは、栄養素的な観点から、「長寿ビタミン」と称されたりもする抗酸化性の有用機能性分子で、我々の食事ではキノコや発酵食品などの成分として多く含まれています。セレノネインは、エルゴチオネインと構造的に類似した抗酸化性分子であり、似て非なる有用性が明らかにされつつあり、マグロ等の魚類の血合いに多く含まれています。近年、エルゴチオネインやセレノネインの生理機能解明に向けた研究が日本並びに世界で精力的に展開され、多様な側面からヒトの健康(認知機能、炎症抑制等々)に資する効能が明らかになってきています。それゆえ、我々の生活に関わる化粧品・医薬品・健康食品等の製品の機能性原料としての実用化も進んでおります。今後は、生産・流通や用途開発・製品化が加速し、エルゴチオネインやセレノネインを中心とする産業・市場構造の本格的な勃興が予想されます。同時に、各種商品開発・市場シェアの獲得等について競争的な時代に突入します。今日現在は、「エルゴチオネイン・セレノネイン産業が開化期を迎えようとしている」という時機と捉えられます。この状況を鑑み、昨年には「エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を発足し、キックオフとして第1回講演会を催しました。幸運にも日本を代表する研究者、企業開発者が集い、一般層にも及ぶ幅広い関係者による各分野の最前線の研究開発、実用化構想等の有益な発表・議論の貴重な機会になりました。これにより、産学融合コミュニティーの連携促進、国民一般消費者への周知・普及の一助になれたかと存じます。次なる一歩を踏み出すべく、今回、第2回の研究会の開催にこぎつけ、昨年に...
2021年9月、アメリカのスペースX社がついに民間宇宙飛行を達成しました。 驚くべきことに、今回の宇宙飛行を達成した宇宙船『クルードラゴン』は、わずか半年ほどの訓練を経ただけの民間人4名のみをクルーとし、3日間の宇宙飛行ののち地球に帰還しました。 クルードラゴンがISSにドッキングする様子(©NASA) もはや宇宙飛行は我々民間人にとっても夢物語ではなく、生きているうちに人類が宇宙に移住する未来も見えてきているのです。 一方で、そうはいってもまだまだ本格的な宇宙移住に向けて解決するべき課題も山済みです。 特にわかっていないのが宇宙空間が生物に与える影響です。 宇宙空間は、あらゆる意味で地球上とは異なる環境です。大気が違うのはもちろんのこと、無重力環境や高線量な宇宙放射線の照射、数百℃に及ぶ寒暖差など、生物にとって過酷な要素がいくつもあります。 これらによって、宇宙飛行を行った生物はしばしば原因不明な体調不良を訴えることが知られています。 もっともよく試験されるマウスでは、特に肝機能に肝臓の線維化や非アルコール性脂肪肝などのいくつかの障害が見いだされることがわかっています。これらは、いずれも重症化することで肝臓がんへと派生する疾患であり、その原因の特定・対策の開発が望まれます。 株式会社ユーグレナではこの度、独自の解析手法『サルファーインデックス解析』によって、宇宙飛行がマウスの肝臓に悪影響を与える一因を特定いたしました! サルファーインデックス解析は、筑波大学の大津巌生 准教授によって開発された解析手法です。 生体内の酸化還元反応の中核を担う硫黄化合物を網羅的に解析することで、生体内が酸化的なのか還元的なのか、それらは何によって引き起こされているのかなどを明らかにすることができます。 (サルファーインデックスの紹介ページ: https://tech.euglab.jp/sulfur/ ) 当社では、大津先生と特別共同研究を進め、JAXAから譲り受けた宇宙飛行を行ったマウスの肝臓をサルファーインデックス解析によって調べました。 研究の概略図 結果として、宇宙で飼育したマウスは、人工重力のあるなしに関わ...
2022年11月12日にインドネシアのジャカルタで開催された超異分野学会にて、2022年度から始まったSATREPSのプロジェクト『微細藻類による二酸化炭素の固定と資源化によるエネルギーおよび食料資源の持続的生産システムの創出』に関して、ユーグレナ社からプロジェクトの取り組みを紹介いたしました。(※)採択されたSATREPSプロジェクトの詳細はこちら プレゼンテーションのタイトルは、『The Project for Integrated sustainable energy and food production from microalgae-based carbon capture and utilization』で、 RESEARCH SPLASHのプログラムの中におけるKEYNOTE PRESENTATIONの位置づけで、株式会社ユーグレナ執行役員CTOの鈴木がプレゼンテーションを行いました。 Hyper Interdisciplinary Conference 2022 @ Indonesia のKEYNOTE PRESENTATION の様子 プレゼンテーションの中ではSATREPSプロジェクト全体の説明として、インドネシアにおいて火力発電所等で発生する二酸化炭素を微細藻類によって回収し、持続可能な資源としてそれらの微細藻類を各種産業に活用する技術を開発し、カーボンニュートラル社会に向けた収益性の高いシナリオを提供することを目指した開発の方針について紹介させてもらいました。 微細藻類を活用したCCUのイメージ ポスターセッションではより詳細にグリーンテンペの話をさせてもらいました。紀元前からパン、ビールなど、食料品の生産技術として人類に多大なる恩恵をもたらしてきた発酵技術ですが、現在は発酵を制御する技術も増加してきました。我々のチームでは、従来の発酵プロセスを新しく構築しなおす技術を「発酵リモデリング」と定義づけており、その中でユーグレナなどの微細藻類を用いた発酵プロセスを「グリーン発酵」として、新しい発酵の付加価値を社会にもたらすことを目指しています。インドネシアの課題解決の可能性として、伝統的な発酵食品テンペに対して、発酵プロセスにおいてユーグレナ(和名:ミドリムシ)粉末を加えて作る高付加価値の機能性のあるグ...
皆さんは健康食品や化粧品などのヘルスケア商品を手に取るとき、『抗酸化活性』を気にして選んでいますか? 気にしているという方でも、実はその詳しい意味をご存じないという方は少なくないのではないかと思います。 今回は体の酸化と、それに抗う抗酸化活性について、簡単にご説明いたします。 言うまでもなく、我々生物は、呼吸をしなければ生きていけません。 しかし、そもそもなぜ呼吸をしなければ生きていけないのでしょうか? 『酸素を取り込むためでしょ』と考えられた方、大正解です。 ヒトの体は、無数の酸化還元反応の連鎖によってできています。食べ物を食べてエネルギーを取り出すことも、栄養を基に体を作ることも、いずれも酸化還元反応です。 酸化還元反応は、平たく言えば物質間での電子の受け渡しです。酸化還元反応によって物質間を行き来した電子の、最後に行きつく先こそが、呼吸によって取り込まれた酸素です。 このように、酸素は体内では「最終電子受容体」と呼ばれる役割を担います。 さて、酸素と電子が出会うと、最終的には水になるのですが、その過程で非常に活性が高い酸素種『活性酸素種』を生み出します。 この活性酸素種は、免疫機能の一部としても働くのですが、過剰に発生してしまった場合に体にとって有害で、例えば、老化の促進や細胞のガン化、肥満・糖尿病などの生活習慣病の誘発など、様々な悪影響を及ぼすことが知られています。 このように体内に体にとって有害な量の活性酸素種が存在している状態を、我々は"体が酸化している"と表現しているのです。 体内の活性酸素種量は、日々の生活と密接に関係しています。 例えば不規則な食事、体への過度な負荷、飲酒・喫煙、紫外線・放射線への暴露などは、体の活性酸素種量を増やすリスクがあると報告されています。 反対に、いったん増加してしまった活性酸素種を行動によって減らすこともできます。 『抗酸化活性』と呼ばれる効果を持つものがそれにあたり、食べ物などから体内に取り込むことで効果を発揮します。 代表的な抗酸化物質には、ビタミンE(トコフェロール)やポリフェノール、カルテノイドなどがあります。 体内で合成されるものだけでなく、これらが豊富に...
以前の記事で、体の酸化と抗酸化物質について取り上げましたが、抗酸化物質には様々なものがあるのをご存じですか? 今日はそんな抗酸化物質の一つ、エルゴチオネインについてご紹介します。 エルゴチオネインの構造式 エルゴチオネインは、希少アミノ酸誘導体に分類される天然成分です。 一部のキノコや麹菌、放線菌などの微生物によって作られ、人間は体内で合成することができないため、これらの食品を食べることでのみ体に取り込むことができます。 エルゴチオネインは、非常に強い抗酸化活性を示すことが知られています。人の体内に最も多い抗酸化物質であるグルタチオンと比較すると、最大で30倍ほども高い活性酸素種消去能を持つともいわれています。 このエルゴチオネインが、健康成分として近年にわかに注目を集めてきています。 実は、ヒトの細胞にエルゴチオネインを特異的に取り込む働きをするトランスポーターがあることが明らかになり、ヒト細胞が高濃度にエルゴチオネインを蓄積していることもわかったのです。 人が、元来ヒトの体で作ることができないエルゴチオネインをこれほど積極的に利用しているということは大きなおどろきをもって受け入れられ、その後研究が進み、さらに驚くべきことがいくつもわかりました。 エルゴチオネインは、過酸化脂質と呼ばれ悪性物質の発生原因となるヒドロキシラジカルを唯一直接消去することができます。 また、神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン氏病)、うつ病、肌の老化、白内障など、全身の様々な疾患の抑制に効果があることもがわかっています。 このように体にとって非常に有益なエルゴチオネインですが、加齢に伴って細胞への蓄積量が低下することもわかっており、食べて摂取することで様々な加齢に伴う疾患を抑制することができます。 他の抗酸化物質とは異なる強力な活性をもつエルゴチオネインは、未来のエイジングケアの鍵となる素材かもしれません!
I.概要 第1回エルゴチオネイン・セレノネイン研究会が2020年10月8日(木)にオンラインにて開催されました。特別講演と一般演題合わせて10個の最先端研究の発表が行われ、参加者も200人以上に上り、活発な質疑応答も行われました。プログラムは以下の通りです。 主催:株式会社ユーグレナ 共催:健康長寿食品研究開発プラットフォーム(おー09) 後援:農林水産省 「知」の集積と活用の場 II.演題詳細 ①「エルゴチオネインとヒト認知能の関わり」 〇柳田充弘 名誉教授(沖縄科学技術大学院大学G0細胞ユニット) 京都大学生命科学研究科と沖縄科学技術機構(後に大学院大学)で10年以上前に質量分析機を用いた新規メタボリズム研究を開始し、細胞寿命に関わるタンパク質やメタボライトの同定と機能を追求した(Pluskal et al, Mol. Biosyst. 2009; Takeda et al, PNAS, 2010)。分裂酵母の全メタボローム解析によって抗酸化物質であるエルゴチオネイン(以下EGT)含量が培地のグルコース飢餓により上昇し細胞寿命の延長が伴うことを見出した(Pluskal et al, FEBS J, 2011)。次いで窒素源飢餓でもEGT含量が上昇すること(Sajiki et al Metabolites 2013)を見出し、分裂酵母細胞の栄養飢餓に伴う大きな代謝変化の中でEGT並びにセレノネイン(Pluskal et al 2013 Plos One)など関連メタボライトが関わる代謝変動も判明した。EGTの抗酸化作用が寿命延長と関わるならば、EGTは高等生物にも存在するのでヒトを対象とする研究の意義も予想された。このラインの研究を発展させるために以降ヒト研究は京都大学医学研究科の近藤祥司准教授グループ等との共同研究を開始した。包括的な血液メタボロミックスを行うとヒト血液と分裂酵母のパターンは驚くほどよく似ていた(75%の相同性;Chaleckis et al 2014 Mol Biosyst)。しかしEGT含量は老化度(年齢経過)と関わるという結果はえられなかった。その代わり抗酸化の低下は年齢と共に起きるようであった(Chaleckis et al 2016, PNAS)。一方絶食下でE...
第2回 エルゴチオネイン・セレノネイン研究会 プログラム&抄録集 2021年11月17日(水) 13:00 ~ 16:50 【主 催】株式会社ユーグレナ 【共 催】健康長寿食品研究開発プラットフォーム (お-09) 【後 援】農林水産省 「知」の集積と活用の場 ご挨拶 「第2回エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を2021年11月17日(水)に、株式会社ユーグレナの主催でオンラインにて開催する運びとなりました。 エルゴチオネインは、栄養素的な観点から、「長寿ビタミン」と称されたりもする抗酸化性の有用機能性分子で、我々の食事ではキノコや発酵食品などの成分として多く含まれています。セレノネインは、エルゴチオネインと構造的に類似した抗酸化性分子であり、似て非なる有用性が明らかにされつつあり、マグロ等の魚類の血合いに多く含まれています。近年、エルゴチオネインやセレノネインの生理機能解明に向けた研究が日本並びに世界で精力的に展開され、多様な側面からヒトの健康(認知機能、炎症抑制等々)に資する効能が明らかになってきています。それゆえ、我々の生活に関わる化粧品・医薬品・健康食品等の製品の機能性原料としての実用化も進んでおります。今後は、生産・流通や用途開発・製品化が加速し、エルゴチオネインやセレノネインを中心とする産業・市場構造の本格的な勃興が予想されます。同時に、各種商品開発・市場シェアの獲得等について競争的な時代に突入します。今日現在は、「エルゴチオネイン・セレノネイン産業が開化期を迎えようとしている」という時機と捉えられます。この状況を鑑み、昨年には「エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を発足し、キックオフとして第1回講演会を催しました。幸運にも日本を代表する研究者、企業開発者が集い、一般層にも及ぶ幅広い関係者による各分野の最前線の研究開発、実用化構想等の有益な発表・議論の貴重な機会になりました。これにより、産学融合コミュニティーの連携促進、国民一般消費者への周知・普及の一助になれたかと存じます。次なる一歩を踏み出すべく、今回、第2回の研究会の開催にこぎつけ、昨年に...
2021年9月、アメリカのスペースX社がついに民間宇宙飛行を達成しました。 驚くべきことに、今回の宇宙飛行を達成した宇宙船『クルードラゴン』は、わずか半年ほどの訓練を経ただけの民間人4名のみをクルーとし、3日間の宇宙飛行ののち地球に帰還しました。 クルードラゴンがISSにドッキングする様子(©NASA) もはや宇宙飛行は我々民間人にとっても夢物語ではなく、生きているうちに人類が宇宙に移住する未来も見えてきているのです。 一方で、そうはいってもまだまだ本格的な宇宙移住に向けて解決するべき課題も山済みです。 特にわかっていないのが宇宙空間が生物に与える影響です。 宇宙空間は、あらゆる意味で地球上とは異なる環境です。大気が違うのはもちろんのこと、無重力環境や高線量な宇宙放射線の照射、数百℃に及ぶ寒暖差など、生物にとって過酷な要素がいくつもあります。 これらによって、宇宙飛行を行った生物はしばしば原因不明な体調不良を訴えることが知られています。 もっともよく試験されるマウスでは、特に肝機能に肝臓の線維化や非アルコール性脂肪肝などのいくつかの障害が見いだされることがわかっています。これらは、いずれも重症化することで肝臓がんへと派生する疾患であり、その原因の特定・対策の開発が望まれます。 株式会社ユーグレナではこの度、独自の解析手法『サルファーインデックス解析』によって、宇宙飛行がマウスの肝臓に悪影響を与える一因を特定いたしました! サルファーインデックス解析は、筑波大学の大津巌生 准教授によって開発された解析手法です。 生体内の酸化還元反応の中核を担う硫黄化合物を網羅的に解析することで、生体内が酸化的なのか還元的なのか、それらは何によって引き起こされているのかなどを明らかにすることができます。 (サルファーインデックスの紹介ページ: https://tech.euglab.jp/sulfur/ ) 当社では、大津先生と特別共同研究を進め、JAXAから譲り受けた宇宙飛行を行ったマウスの肝臓をサルファーインデックス解析によって調べました。 研究の概略図 結果として、宇宙で飼育したマウスは、人工重力のあるなしに関わ...
2022年11月12日にインドネシアのジャカルタで開催された超異分野学会にて、2022年度から始まったSATREPSのプロジェクト『微細藻類による二酸化炭素の固定と資源化によるエネルギーおよび食料資源の持続的生産システムの創出』に関して、ユーグレナ社からプロジェクトの取り組みを紹介いたしました。(※)採択されたSATREPSプロジェクトの詳細はこちら プレゼンテーションのタイトルは、『The Project for Integrated sustainable energy and food production from microalgae-based carbon capture and utilization』で、 RESEARCH SPLASHのプログラムの中におけるKEYNOTE PRESENTATIONの位置づけで、株式会社ユーグレナ執行役員CTOの鈴木がプレゼンテーションを行いました。 Hyper Interdisciplinary Conference 2022 @ Indonesia のKEYNOTE PRESENTATION の様子 プレゼンテーションの中ではSATREPSプロジェクト全体の説明として、インドネシアにおいて火力発電所等で発生する二酸化炭素を微細藻類によって回収し、持続可能な資源としてそれらの微細藻類を各種産業に活用する技術を開発し、カーボンニュートラル社会に向けた収益性の高いシナリオを提供することを目指した開発の方針について紹介させてもらいました。 微細藻類を活用したCCUのイメージ ポスターセッションではより詳細にグリーンテンペの話をさせてもらいました。紀元前からパン、ビールなど、食料品の生産技術として人類に多大なる恩恵をもたらしてきた発酵技術ですが、現在は発酵を制御する技術も増加してきました。我々のチームでは、従来の発酵プロセスを新しく構築しなおす技術を「発酵リモデリング」と定義づけており、その中でユーグレナなどの微細藻類を用いた発酵プロセスを「グリーン発酵」として、新しい発酵の付加価値を社会にもたらすことを目指しています。インドネシアの課題解決の可能性として、伝統的な発酵食品テンペに対して、発酵プロセスにおいてユーグレナ(和名:ミドリムシ)粉末を加えて作る高付加価値の機能性のあるグ...
皆さんは健康食品や化粧品などのヘルスケア商品を手に取るとき、『抗酸化活性』を気にして選んでいますか? 気にしているという方でも、実はその詳しい意味をご存じないという方は少なくないのではないかと思います。 今回は体の酸化と、それに抗う抗酸化活性について、簡単にご説明いたします。 言うまでもなく、我々生物は、呼吸をしなければ生きていけません。 しかし、そもそもなぜ呼吸をしなければ生きていけないのでしょうか? 『酸素を取り込むためでしょ』と考えられた方、大正解です。 ヒトの体は、無数の酸化還元反応の連鎖によってできています。食べ物を食べてエネルギーを取り出すことも、栄養を基に体を作ることも、いずれも酸化還元反応です。 酸化還元反応は、平たく言えば物質間での電子の受け渡しです。酸化還元反応によって物質間を行き来した電子の、最後に行きつく先こそが、呼吸によって取り込まれた酸素です。 このように、酸素は体内では「最終電子受容体」と呼ばれる役割を担います。 さて、酸素と電子が出会うと、最終的には水になるのですが、その過程で非常に活性が高い酸素種『活性酸素種』を生み出します。 この活性酸素種は、免疫機能の一部としても働くのですが、過剰に発生してしまった場合に体にとって有害で、例えば、老化の促進や細胞のガン化、肥満・糖尿病などの生活習慣病の誘発など、様々な悪影響を及ぼすことが知られています。 このように体内に体にとって有害な量の活性酸素種が存在している状態を、我々は"体が酸化している"と表現しているのです。 体内の活性酸素種量は、日々の生活と密接に関係しています。 例えば不規則な食事、体への過度な負荷、飲酒・喫煙、紫外線・放射線への暴露などは、体の活性酸素種量を増やすリスクがあると報告されています。 反対に、いったん増加してしまった活性酸素種を行動によって減らすこともできます。 『抗酸化活性』と呼ばれる効果を持つものがそれにあたり、食べ物などから体内に取り込むことで効果を発揮します。 代表的な抗酸化物質には、ビタミンE(トコフェロール)やポリフェノール、カルテノイドなどがあります。 体内で合成されるものだけでなく、これらが豊富に...