次世代のサステナブルな食糧生産法の紹介【精密醗酵(せいみつはっこう)】

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昨今、”精密醗酵(precision fermentation)” と呼ばれる技術の研究が産業レベルまで成熟してきています。

この技術を活用すると、哺乳類に頼らずに微生物の力だけでお肉や牛乳などの食用タンパク質が作れるようになるのです。

世界の食料問題解決のカギとも言われるこの技術についてご紹介いたします。

醗酵のイメージ(MrdidgによるPixabayからの画像)

〇哺乳類由来肉が抱える環境負荷の問題

近年、牛肉や豚肉などの哺乳類由来のタンパク質が与える環境への影響が注目されています。

牛肉や豚肉は当然それぞれ牛や豚からとれるわけですが、これらを育てるためには非常に多くの資源を必要とします。

例えば牛肉は1kg生産するために、飼料として消費されるトウモロコシは11kgに上ると言われています。

知ってる?⽇本の⾷料事情〜⽇本の⾷料⾃給率・⾷料⾃給⼒と⾷料安全保障〜 p.4より(農林水産省)

すなわち、牛肉は実際に食べられる量の10倍以上量の別の食べ物を消費しなければ作れないのです。

飼料用のトウモロコシを育てるためにも多量の水・栄養源が消費されていることを考えると、牛肉等の哺乳類由来のタンパク質は、資源消費量の多い高環境負荷な食品ということができます。

世界人口は増加の一途をたどっており、このままでは大規模な飢饉発生すると言われている中で、哺乳類性のタンパク質の生産は大きな負荷になっています。

World Population 1820 2019 – SciFi (sciencefiles.org)

この問題の解決のために、哺乳類由来に代わる様々なタンパク質食料の提案がなされています。

例えば植物や培養細胞を使った代替肉や、より環境負荷の低い昆虫食などがこれにあたり、すでに様々な企業が商品化に着手しています。

〇精密醗酵の特徴と代替肉との違い

精密醗酵もこれらに並ぶ、哺乳類に頼らないタンパク質生産法の一つです。

精密醗酵では、カゼインやオボアルブミンなどといった哺乳類由来のタンパク質を、微生物によって作らせる方法です。

これまでの代替肉と違うのは、これらが哺乳類由来とは異なる種類のタンパク質をお肉のように似せているだけなのに対して、哺乳類由来と全く同じ種類のタンパク質を作れているという点です。

一口にタンパク質といってもアミノ酸配列によって機能も風味も異なるため、精密醗酵で作られたお肉には風味や栄養素の面でも、既存の哺乳類由来のお肉と全く同じものが作成されできることが期待されます。

精密醗酵は微生物の遺伝子組み換え技術が前提となっており、本来哺乳類で作られるたんぱく質の遺伝情報を微生物に導入することで、同じタンパク質を微生物に作らせています。

Arek SochaによるPixabayからの画像

実は、類似の技術自体は古くからあるものです。

特定のタンパク質を大腸菌等に作らせる(=リコンビナント発現)は微生物学分野では汎用的な技術です。

産業分野でも、動物から作ると効率の悪いインスリン(糖尿病患者に投与する医薬品)やレンネット(チーズの凝固に使われるプロテアーゼ)の生産に使われています。

代替肉分野で革新的なのは、牛乳やお肉などといった、大量かつ複雑なものも再現するほどの精度で生産が可能になったことです。

例えばイスラエルにあるスタートアップ企業のImagindairy社は、精密醗酵によって牛乳が持つ何十種類ものタンパク質を正確に再現することで、本物と見分けのつかない完全な牛乳を作ることを目指しています (Imagindairy )

〇ユーグレナ社の取り組み

当社でも以前より様々な低環境負荷食材の開発に着手しており、精密醗酵についても研究を開始しています。

藻類には、光合成によって二酸化炭素からタンパク質を合成できるという特性があります。

この特性を活用すれば、将来的には二酸化炭素からお肉を合成する、なんてことも可能かもしれません。

食についても将来への不安の少ない持続的な未来を作るため、今後とも研究開発を進めていきます。

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