第2回
エルゴチオネイン・セレノネイン研究会
プログラム&抄録集
2021年11月17日(水)
13:00 ~ 16:50
【主 催】株式会社ユーグレナ
【共 催】健康長寿食品研究開発プラットフォーム
(お-09)
【後 援】農林水産省 「知」の集積と活用の場
ご挨拶
「第2回エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を2021年11月17日(水)に、株式会社ユーグレナの主催でオンラインにて開催する運びとなりました。
エルゴチオネインは、栄養素的な観点から、「長寿ビタミン」と称されたりもする抗酸化性の有用機能性分子で、我々の食事ではキノコや発酵食品などの成分として多く含まれています。セレノネインは、エルゴチオネインと構造的に類似した抗酸化性分子であり、似て非なる有用性が明らかにされつつあり、マグロ等の魚類の血合いに多く含まれています。近年、エルゴチオネインやセレノネインの生理機能解明に向けた研究が日本並びに世界で精力的に展開され、多様な側面からヒトの健康(認知機能、炎症抑制等々)に資する効能が明らかになってきています。それゆえ、我々の生活に関わる化粧品・医薬品・健康食品等の製品の機能性原料としての実用化も進んでおります。今後は、生産・流通や用途開発・製品化が加速し、エルゴチオネインやセレノネインを中心とする産業・市場構造の本格的な勃興が予想されます。同時に、各種商品開発・市場シェアの獲得等について競争的な時代に突入します。今日現在は、「エルゴチオネイン・セレノネイン産業が開化期を迎えようとしている」という時機と捉えられます。この状況を鑑み、昨年には「エルゴチオネイン・セレノネイン研究会」を発足し、キックオフとして第1回講演会を催しました。幸運にも日本を代表する研究者、企業開発者が集い、一般層にも及ぶ幅広い関係者による各分野の最前線の研究開発、実用化構想等の有益な発表・議論の貴重な機会になりました。これにより、産学融合コミュニティーの連携促進、国民一般消費者への周知・普及の一助になれたかと存じます。次なる一歩を踏み出すべく、今回、第2回の研究会の開催にこぎつけ、昨年に勝るとも劣らない業界のキーパーソンに登壇頂きます。その講演内容は、去年時点ではまだこの世に存在しない、つまり、この一年で生まれたホットトピック・成果等も多いと伺っており、正にタイムリーな知見共有の機会となるでしょう。
最後に、改めて社会的・科学技術的・産業的に重要なタイミングにあるエルゴチオネイン・セレノネインについて、国内の産学官の関係者が一同に会し、智恵を結集し、国際競争力を発揮する有機的な連携を図り、また国民消費者の認知・理解を普及する試みの一環として、参加される皆様各人それぞれの積極的な活動を望みます。本研究会が、人類社会の未来に向けて有意義な礎となることを信じてやみません。
第2回エルゴチオネイン・セレノネイン研究会 幹事
筑波大学生命環境系 准教授 大津厳生
運営委員
- 実行委員長
鈴木健吾(株式会社ユーグレナ執行役員研究開発担当)
- 実行委員
大津厳生(筑波大学生命環境系)※幹事
河野祐介(筑波大学生命環境系)
西村和生(株式会社ユーグレナ商品開発部)
橋本(丸川)祐佳(株式会社ユーグレナ研究開発部)
堀内真展(株式会社ユーグレナ商品開発部)
豊川知華(株式会社ユーグレナ研究開発部)
森京子(愛京産業株式会社 代表取締役)
- 講演会司会
豊川知華(株式会社ユーグレナ研究開発部)
- 「知」の集積と活用の場 健康長寿食品研究開発プラットフォーム(お–09)
プロデューサー
森京子(愛京産業株式会社 代表取締役)
大津厳生(筑波大学理工情報生命学術院 准教授)
森光一郎(ホクト株式会社開発研究課 係長)
大池秀明(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
畜産研究部門 上級研究員)
プログラム
13:00 – 13:10 開会挨拶(実行委員長)
鈴木健吾(株式会社ユーグレナ 執行役員研究開発担当)
13:10 – 13:40 特別講演「エルゴチオネイン高生産スマートセルの開発
~発酵由来高純度EGTの事業化を目指して~」
仲谷豪(長瀬産業株式会社 ナガセR&Dセンター コア技術課 課統括)
13:40 – 13:45 ——– 休憩(5分)——–
13:45 – 14:05 招待講演1「コリネ型細菌・出芽酵母を用いたエルゴチオネインの発酵生産」
平沢敬(東京工業大学生命理工学院 准教授)
14:05 – 14:25 招待講演2「郵送検査とエルゴチオネインの可能性」
瀧本陽介(株式会社ヘルスケアシステムズ 代表取締役)
14:25 – 14:45 招待講演3「食用きのことエルゴチオネイン」
森光一郎(ホクト株式会社開発研究課 係長)
14:45 – 14:55 ——– 休憩(10分)——–
14:55 – 15:15 招待講演4「米麹によるエルゴチオネイン生産」
吉冨健一(株式会社咲吉 代表取締役)
15:15 – 15:35 招待講演5「『エルゴチオネイン』を関与成分とする機能性表示食品『記憶の番人』の開発」
松本聡(株式会社エル・エス コーポレーション 製造開発部 開発
執行役員)
15:35 – 15:55 招待講演6「微生物の育種によるエルゴチオネイン生産系の構築」
石口竜誠(筑波大学生物資源科学学位プログラム 修士課程)
15:55 – 16:05 ——– 休憩(10分)——–
16:05 – 16:25 招待講演7「セレノネインによるヒトの未病改善効果を検証する研究」
世古卓也(水産機構・技術研・環境・応用部門・水産物応用開発部)
16:25 – 16:45 総合討論
司会:鈴木健吾(株式会社ユーグレナ 執行役員研究開発担当)
16:45 – 16:50 閉会挨拶(共催者代表)
森京子(「知」の集積と活用の場 健康長寿食品研究開発プラットフォーム プロデューサー)
特別講演
エルゴチオネイン高生産スマートセルの開発
~発酵由来高純度EGTの事業化を目指して~
仲谷豪, 野口祐司, 石井伸佳, 松本淳, 小坂邦男,
仲島菜々実, 佐古田昭子, 吉田有紀, 西村優花, 嘉悦佳子
長瀬産業㈱
エルゴチオネイン(以下、EGT)はキノコなどに微量含まれる抗酸化能に優れた天然アミノ酸で、食品、化粧品、医薬品等の幅広い分野での利用が期待されている。EGTは体内で合成できないが、各組織において発現するEGT特異的な輸送体OCTN1が食事由来のEGTを細胞内に取り込むことが分かっている。近年の研究で、EGTは活性酸素種を消去し、加齢によって起こるしわや、認知機能低下などの発現を遅らせる可能性が示されている。また、体内EGTレベルの低下と、認知症、軽度認知障害、フレイル、パーキンソン病、循環器疾患との間には相関性があることも示されている。OCTN1の発見と上記の疾患との関係解明から、長期的な健康に不可欠で食事から摂取すべき「長寿ビタミン」の一つとして提唱されるなど、市場におけるEGT利用への期待が年々高まっている。
当社開発開始時には、EGTの製法としては天然物からの抽出法、化学合成法が知られていたが、純品換算で数千万円/kgといったものが多く、サプリメントや化粧品などで十分量使用できる価格のものは存在しなかった。また、使用時の扱いやすさの観点から他のアミノ酸類のように高純度品に関するニーズがあることが判明した。こうした背景から、ナガセR&Dセンターでは、2014年より発酵法を用いて安価かつ高純度なEGTを安定供給できる環境配慮型バイオ生産プロセスの開発を進めてきた。さらに2016年からは、NEDOのスマートセルプロジェクトに参画し先端バイオ技術を利用することで、EGT生産能力向上を加速してきた。これまでに、研究開始時の生産菌と比較し約1000倍以上まで生産性を高め、当社の事業化目標を超える生産菌の開発に成功した。また、生産菌開発と並行して進めてきた、培養プロセス、高度精製プロセスについても開発が完了し、現在、来年度以降の事業化に向けた検討を鋭意進めている段階である。本発表では、当社のEGT生産研究に加え、魅力的な素材であるEGTについて一般の方々に知ってもらい、産業として盛り上げていくために当社にどういったことができるかといった点にも触れたい。
招待講演1
コリネ型細菌・出芽酵母による
エルゴチオネインの発酵生産
平沢 敬
東京工業大学 生命理工学院
高い抗酸化能に基づく有用な生理作用を示すことで注目されているエルゴチオネイン (以下EGT)は、産業応用に向けてその供給量の向上が求められている。我々は、EGTの供給向上に向けて、微生物を用いたEGTの発酵生産に取り組んでいる。本講演では、アミノ酸などの有用物質の発酵生産に用いられるコリネ型細菌Corynebacterium glutamicumおよびアルコール醸造などに用いられる出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの組換え株によるEGTの発酵生産について、我々の取り組みを紹介する。
コリネ型細菌によるEGTの発酵生産
Mycobacterium smegmatis由来のEGT生合成遺伝子egtABCDEをC. glutamicumの野生株に導入した組換え株において、培養開始2週間後にEGTを20 mg/L程度生産することを見いだした。また、システイン生産株 (Kondoh and Hirasawa, Appl. Microbiol. Biotechnol., 2019; Kishino et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 2019)を宿主に用いることで、EGTの生産性を2倍程度向上させることに成功した。
EgtAはγ-グルタミルシステインの生成反応を触媒するが、C. glutamicumはEgtAのホモログを有する。そこで、egtA以外のegtBCDE遺伝子をシステイン生産株に導入し、EGT生産を評価したところ、培養開始2週間後に70 mg/L以上の生産に達し、egtA遺伝子を導入しない方が高い生産性を示すことが明らかとなった。
出芽酵母によるEGTの発酵生産
分裂酵母Schizosaccharomyces pombe由来のEGT生合成遺伝子egt1・egt2をS. cerevisiaeに導入した組換え株において、培養開始2週間後に40 mg/L程度のEGTを生産することが確認された。また、EGTの生合成に必要となるヒスチジン・システイン・メチオニンを培地に添加することで、その生産量を2倍程度増加させることに成功した。一方、M. smegmatis由来egtABCDE遺伝子を導入した組換え株においては、EGTの生産は確認されなかった。
招待講演2
郵送検査とエルゴチオネインの可能性
瀧本陽介
㈱ヘルスケアシステムズ
エルゴチオネインは、近年の研究によって生体内における様々な機能性に関する報告と吸収動態の解明が進んでおり、次世代の機能性食品素材として注目が高まっている。我々は、エルゴチオネインの抗酸化能に着目し、精子運動性の改善と男性不妊に対する有用性検討を進めており、豚精液への添加実験とヒト臨床試験にて良好な結果を得ることができた。
一方で、動物や植物はエルゴチオネインを生合成することができないため、キノコや一部の細菌が産生したエルゴチオネインを、根から吸収したり食物から摂取して生体内に取り込んでいる。つまりヒトは、食事バランスによって生体内のエルゴチオネイン量に個人差があると想像される。
我々は、生活習慣や食生活に密接にかかわる未病バイオマーカーを開発し、一般消費者が手軽に検査できる郵送検査キットによってサイエンスに基づいた行動変容を実現しようとしている。これまでに血液や尿、唾液などの生体試料から、酸化ストレスマーカーや食品成分の腸内細菌代謝物、ビタミンやミネラルなどの検査キットを上市し、50万人を超えるユーザーに検査結果を提供してきた。
現在、エルゴチオネイン充足度を測定する検査キットを開発しており、近い将来、多くの人が手軽に自らの状態を調べられるようにしたいと考えている。さらに、郵送検査の利便性によって、食生活とエルゴチオネインの関係解明やコホート調査といった大規模研究に貢献できることを願っている。
招待講演3
食用キノコとエルゴチオネイン
森光一郎, 花山幹, 土居香織, 安積良仁, 川井絢矢
ホクト㈱開発研究課
現在、食品向けのエルゴチオネイン(以下EGT)原料として、主にタモギタケやササクレヒトヨタケというキノコが利用されています。一方、ヒラタケ、エリンギ、ブナシメジといった一般的な食用キノコにもEGTは豊富に含まれています。弊社はキノコメーカーの立場からEGTの普及と市場拡大を目指すため、食用キノコとその加工品のEGT量の調査、食育活動やWebでのEGT普及活動、EGT含有キノコの機能性解明、より魅力あるEGT含有キノコの開発などを進めています。
私達の調査では、EGTはヒラタケ属のキノコに多い傾向が見られています。弊社が生産する生鮮キノコの中でEGT含有量が最も多い霜降りひらたけには、今年度よりEGTの強調表示を開始しました。一人でも多くの人に、EGTを知ってもらいたいと考えています。
EGTはその抗酸化能により、認知症、フレイル、心血管疾患など様々な疾患の予防に関わる作用を有すると推測されています。その一つとして、弊社は皮膚障害の抑制作用について、金沢大学医薬保健研究域 加藤将夫教授と共同研究を行っています。紫外線誘導性皮膚障害モデルマウスを用いた実験では、霜降りひらたけの投与により、血漿および皮膚組織のEGT濃度上昇とともに、UVB照射による皮膚バリア能低下、肌水分量低下、および表皮肥厚といった皮膚障害が抑制されることを確認しています。現在、その分子メカニズムの解明に向け試験を継続しています。
EGTは、発酵生産の技術開発や、欧米においては食品への化学合成品の利用も進む中、国内の食品向け原料はキノコ由来のものが主流です。きのこによる効率的で安定的なEGT生産技術について、今後の市場で求められるものを開発したいと考えています。キノコのEGTにご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、是非ご意見やご要望をお聞かせ下さい。
招待講演4
米麹によるエルゴチオネイン生産
吉冨健一1
1㈱咲吉
弊社は長崎県にある麹菌を使った商品の製造販売の会社です。長崎県健康長寿部会の部員として、健康寿命延伸につながる付加価値の高いヘルスケアサービスの創出に取組んでおります。
2017年9月、ニューヨークで行われた日本食レストランショーへの出展が決まり、出展する「冷凍生甘酒」の機能性を謳うために商品の様々な検査をおこない、その中にごく僅かにエルゴチオネインが含有される事を知りました。それを機に、エルゴチオネイン(以下EGT)の研究を開始しました。
自社商品のEGT含有量の調査を行ったところ最大で100gの甘酒中にEGT3.7㎎含有することが確認できました。その後継続してEGTの生合成経路に注目してコウジ菌の培養条件の検討を続けておりましたが、試験の都度自分で食していくなかで、自分の肌、頭髪、気分の変化に気がつきました。このことから、食す以外に、皮膚へ塗布の実験も開始しました。2019年には100gにEGT10㎎を含有した化粧品原料「咲吉生糀甘酒」を上市しています。また食品用途では米とコウジのみでEGT高含有化を実現した「咲吉麹」を完成させています。
そんな中、昨年の第一回エルゴチオネイン・セレノネイン研究会に参加したことをきっかけに株式会社ユーグレナとの共同研究を開始しました。微細藻類ユーグレナは優れたアミノ酸バランスをもっているゆえに、EGTの原料となる含硫アミノ酸の含有率も米と比較して高くなっています。また、ユーグレナ自身でもEGTを含有していることが分かっており、ユーグレナ社の既存原料である「ミドリ麹」においても通常の米麹と比較してEGT含有量が高くなることが報告されていました。このことから、咲吉麹の発酵基質としてユーグレナを加えることで、さらなるEGTの高含有化が目指せると考えました。添加するユーグレナ濃度とコウジ菌の種類を検討した結果、咲吉麹では少量のユーグレナ添加でも米のみを基質にする場合と比較してEGTを高含有化できることがわかりましたので現時点での結果を報告します。
また、日本の食文化に欠かせない米と麹がもたらす可能性についても考察します。
招待講演5
『エルゴチオネイン』を関与成分とする機能性表示食品『記憶の番人』の開発
松本聡
㈱エル・エス コーポレーション製造開発部 開発 執行役員
これまで機能性を表示できる保健機能食品は「特定保健用食品(トクホ)」と「栄養機能食品」に限られていましたが、2015年4月に機能性表示食品制度がスタートし、国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる制度で、トクホと異なり、事業者自らの責任において、科学的根拠を基に適正な表示を行う必要があります。2021年11月5日現在までに4651件の届出数が受理されており、記憶や注意をヘルスクレームに使用している届出数406件、上位①イチョウ葉由来(フラボノイド配糖体、テルペンラクトン)、②EPA・DHA、③大豆由来ホスファチジルセリンである(当社調べ)。エルゴチオネインは2件
今回、タモギ茸由来のエルゴチオネインを機能性関与成分とする日本初の機能性表示食品「記憶の番人」が、認知機能をサポートする食品として2021年1月に「機能性表示食品届出No.F682」消費者庁に受理されました。エルゴチオネインとしては、新規届け出となるために申請資料中に特に重要な項目がございます。一つは安全性、もう一つは、表示しようとする機能性の妥当性についてです。表示しようとする機能性(ヘルスクレーム)は「本品にはエルゴチオネインが含まれます。抗酸化作用をもつエルゴチオネインは継続的な摂取により、中高年の方の記憶力(人や物の名前などを記憶し、後から呼び起こす能力)及び注意力(物事に対して注意を集中して持続させる能力)を維持する機能があります。」としました。
私達は、ヒト臨床試験(ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験)および層別解析を用いた方法からその妥当性を導き出し機能性表示食品の申請に用いました。主要アウトカムとしては、Cognitrax認知機能検査を利用して認知機能について評価しました。
今回の研究会発表においては、機能性表示食品申請までの開発経緯などをお話させて頂き、機能性関与成分のエルゴチオネインを一般消費者の方に啓蒙し、エルゴチオネイン含有食品を利用できるように議論させて頂きたいと考えております。
招待講演6
微生物の育種による
エルゴチオネイン生産系の構築
石口竜誠1, 河野祐介2, 大津厳生2
1筑波大・生物資源, 2筑波大・生命環境
エルゴチオネイン(ERG)は含硫アミノ酸の一種で、抗酸化能に優れ、食品や美容、医療といった幅広い分野での産業的応用が期待される。ERGは、キノコ(担子菌類)や麹菌、分裂酵母などの真菌類、細菌の一部が生合成可能だがヒトは不可能である。そのため、ヒトは、含硫アミノ酸を有する食材として摂取しなければならない。現状、市場流通するERGは化学合成的な製造品であり、グラム当たり数十~百万円と非常に高価で、製造プロセスでの溶剤の使用等による環境負荷も高いと考えられる。そこで、本研究では、より安価で低環境負荷な代替法として、微生物の発酵生産法によるERG大量生産系の技術を確立することを目的とする。
当研究室で構築してきたシステイン(Cys)生産大腸菌を利用した(Tanaka et al., Scientific Reports 2019)。ただし、大腸菌はERG生合成遺伝子を持たない。そこでERG生合成酵素遺伝子群としてマイコバクテリア由来egtABCDE遺伝子を導入及び強制発現させた育種株を作製し、基質添加量等の培養条件を検討した結果、大腸菌でのERG生産に世界で初めて成功した (Osawa et al., J. Agric. Food Chem., 2018)。本来バクテリアが有するEgtBはγ-グルタミルシステインを基質とするが、Cys生産大腸菌の強みを活かして、Cysを基質とするバクテリアタイプのEgtBを探索し(システインを基質として利用できる真核生物は存在してる)メチロバクテリア由来EgtBに置き換えることで、ERG生合成の少ステップ化(詳細は発表にて)と同時に生産性の改善(657 mg/L)を果たした(Kamide et al., J. Agric. Food Chem., 2020)。以上はフラスコ培養の結果であるが、工業生産を見据え、ジャーファメンターによる流加培養法での培養スケールアップも試みた。しかし、予想に反しERG生産量は低かった。よって、有機物含量を増やす方向で培地組成の検討を行った結果、比較的短かい培養時間で1.6 g/LのERG生産性を実現できた。ただし、依然としてヘルシニン蓄積も見られる。現在、このヘルシニンが、生産ERGと菌体で生じる過酸化水素の反応物(Servillo et al., Free Radic. Biol. Med., 2015)に由来すると仮説して、育種や培養系の改善を図っており、本発表ではこれらの結果について報告・議論したい。
招待講演7
セレノネインによる
ヒトの未病改善効果を検証する研究
世古卓也1, 山下由美子1, 山下倫明2, 臼井一茂3,
杉下陽堂4, 唐澤里江4, 遊道和雄4
1水産機構・技術研・環境・応用部門・水産物応用開発部
2水産機構・水大校・水産学研究科
3神奈川県水産技術センター
4聖マリアンナ医科大学・難病治療センター
セレノネインは、マグロ類やサバ類の血液や内蔵、血合筋に多く含まれ、強力な抗酸化能を有することから、その利用や健康に与える影響が期待されている。魚食頻度の高い人や、セレノネインを多く含む海棲哺乳類を食べる習慣のある人々の赤血球に多くのセレノネインが蓄積していることも報告されており、近年では魚食と健康に関する重要な因子として研究が進められている。一方で、実際に水産物を喫食し、セレノネインが蓄積するという報告はマウス試験にとどまっており、ヒトでの検証が求められてきた。発表者らは①ヒトにおける食事からのセレノネインの蓄積性、②生体内の抗酸化能への影響、③各種健康指標への影響を明らかにし、健康寿命延伸および未病対策に向けたマグロの継続摂取の有効性を明らかにすべく、令和3年度から共同研究を開始した。現在、100名の被験者を対象として、3週間定期的にメバチマグロの赤身もしくは血合筋を刺身として摂食する試験を進めており、①については水産機構を中心にセレノネインや総セレン、各種微量元素、脂肪酸といった項目の評価を進めている。②については神奈川県水産技術センターを中心に血漿を用いた酸化・抗酸化度の測定を行っている。③については聖マリアンナ医科大学難病治療センターを中心に、寿命延長効果に関与するSirtuin 2および腫瘍抑制因子であるP16の発現を評価する。本発表では、令和3年度から発足した共同研究について概説するとともに、近年のセレノネインに関する研究や課題について紹介したい。
御礼
本研究会の開催に当たり、下記の企業の皆様にご協力いただきました事を心よりお礼申し上げます。
農林水産省 「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会事務局
アズ・ワールドコム ジャパン株式会社 古川様
「本研究会の開催の告知情報」をメールマガジン及びホームページへ掲載して頂きましたことありがとうございました。